なに活に印刷のご注文をいただくお客さまの多くは、強印圧による凹みを希望されます。
他の版式には真似のできない、視覚と触角に訴える表現に惹かれて。
私も同じくそこに惹かれて始めたものですから、喜んでお引き受けしています。
ところが、活版印刷の全盛期を知る印刷人にとって、紙が凹むほどの強い印圧(その目的が演出であっても)は忌み嫌うべき対象であることをお伝えすると、皆さん大変驚かれます。
強印圧が嫌われた理由とは何だったのでしょうか。
一番の理由は、活版印刷の主役であった活字の存在です。
鉛が主体の合金である活字は柔らかく、強印圧であっけなく文字が潰れてしまいます。
(印刷機の損傷を防ぐため、版胴や圧胴の材質より弱くなくてはならない)
また、過剰な印圧は印刷機の精度の狂いや寿命を縮める原因になるのも理由の1つです。
それに加えて、強印圧の凹みが映えるのは紙厚0.4mm以上の厚紙ですから、当時の用紙事情もあったかと思います。
そのような背景から、活版印刷に携わる方々の印圧に対する価値観が形成されたのだと思います。
印圧大好きの私でも、手フートのように強印圧を想定して作られていない印刷機や、活字での強印圧は好みません。
正直に告白すると、かつて私も活字をダメにしたことがあります。
文字が醜く変形した活字に気付いた時、とても悔やみました。
愚かなことに、このとき初めて活字が繊細であることに気付いたのです。
強印圧に関する賛否の議論は、今やDeep Impression(強印圧)がトレードマーク?のアメリカのレタープレス界でも同様です。
しかし、商業印刷の主役の座を譲った活版(凸版)印刷・レタープレスが近年見直されているのには、Deep Impression(強印圧)が大きな影響を与えてきたのは間違いありません。
ただし、それには条件がありました。
アメリカのプリンターにDeep Impression(強印圧)が拡がったのは、Photopolymer Plate(感光性樹脂版)と厚いコットンペーパーの存在が大きかったはずです。
柔らかいコットンペーパーを凹ませるには、硬い樹脂版で十分実用になると評価されたからでしょう。
どんなに硬い樹脂版でも強印圧を掛ければ変形しますが、オールド印刷機を労わる上では安心材料という訳です。
用紙の銘柄とデザインの内容にもよりますが、樹脂版による強印圧も十分実用になります。
(ポイントは最適な特性を持つ樹脂版を選択することです)
これが私が樹脂版を好む理由でもあります。
つづく