活字鋳造から印刷まで手掛けるMichael and Winifred Bixlerを訪問しました。
昨年訪問した際の再訪の約束を果たすことができました。
再会を喜び合ったあと、二日間のプロジェクトの内容について最終確認を。
モノタイプ社製の二種類の鋳造機で、私がオーダーした活字を一緒に作らせていただくのが今回の目的です。
まずはSuper Casterという機種でオーナーメントの鋳造からスタートです。
Super Casterの基本操作は昨年習いましたので、私が鋳造をさせていただきました。
タイミングを見計らって注油と地金の追加をします。
はじめはpigを入れてと言われて意味が判らなかったのですが、それって何?と聞くとingot(地金)のことだよと教えてくれました。pigはあまり良い言葉じゃないけど、とも。
希望の数を鋳込み終えたら母型を交換。
オーナメントの次ぎは書体の鋳造です。
母型は幅(セット)の順に並べられていて、セットの広いものから順に鋳造します。
欧文活字の鋳造では必須の作業となるセットの調整を習いました。鋳造機のダイヤルを操作して母型に打刻されたセットポイントの数値に調整します。単位は1/4ポイントなので、3/4から1/2へという場面などに慣れるのに少し時間がかかりました。
調整を終えたら1文字だけテスト鋳造してマイクロメーターで測定します。
マイクロメーターはインチ規格なので、こちらも慣れるまで大変でした。
仕様書にはポイントとインチの換算表があり、インチで誤差を確認して再調整という手順ですが、分数表記のポイントと、小数点のインチ表記という普段は全く使わない単位に苦戦させられました。
DAY 7 : 10月6日(木)スカニアトレス(ニューヨーク州)
今日は自動で組版と鋳造をするComposition Casterの講習からスタート。Monotype社製の自動鋳植機は、文字を入力するキーボードと、鋳造機が別になっているのが特徴です。
キーボードは取り外しが可能で、フォント毎に異なるものをセッティングします。
こちらがComposition Casterの鋳造機。
お鍋のようなケースに母型がセットされています。
入力した文字を記録したさん孔テープを鋳造機にセットします。
圧縮空気を利用して穴の位置を読み取り、母型庫を動かして鋳型に該当する母型をあてがいます。
今回はフォントセットの鋳造なのでジャストフィケーションは利用していませんが、本文組版の場合は改行とジャスティフィケーションの情報も読み取り、鋳造と組版を同時に行います。
午後からはComposition Casterをマイケルにお任せして、Super Casterで昨日の続きを鋳造していた時です。
昼食を終えた午後、時差ボケの眠気に加えて鋳造に慣れてきた油断があったのでしょう。
母型を外した後に次の母型をセットし忘れたまま動かしてしまった事に気づいた時は、異音とともに鉛があちこちに飛び散っていました。
幸い怪我はありませんでしたが、飛び散った地金を清掃するのが大変で、マイケルに迷惑を掛けてしまいました。
再開したあとは、指さし確認をすることにしました。
「母型よーし」などとブツブツ言って指を差しているものですから、マイケルは不審に思ったかもしれません。
全ての鋳造を終えたのは17時。あっと言う間の二日でした。
手前の女性は、ここで活字鋳造を学んでいるジェシー。
マイケル曰く「Super Casterは彼女のものさ」という位に信頼を得ています。
活字鋳造と活版印刷を後世に伝えたいというマイケルとウィニーの想いと人柄に魅かれ、多くの人たちがここに集まってくるのです。
DAY 8 : 10月7日(金)ニューヨーク
朝一の飛行機でNYに移動。
運転好きの私ですが、マンハッタンだけはその気になれません。
空港からタクシーでホテルへ向かい、荷物を預けた後、地下鉄で製本資材で有名なTALASへ。
道具、材料、参考書とも品ぞろえが充実しています。
参考書をたっぷり購入したので、帰りの駅までが遠く感じました。
あいにくタクシーも見つからず、重い荷を持って次の目的地に向かう気力もなくなったのでホテルへ戻ってチェックイン。
明日の予定を確認していると、地下鉄の移動では時間が足りない感じです。
ふとシェアリング・エコノミーの代表事例として挙げられるUberの事を思い出して調べてみると、評判もよさそうです。
早速、日本から持ってきたスマホでアカウントを登録しようととすると、SMSが必要とのことで行き詰ってしましました。
ナビゲーションの精度も不満でしたので、思い切ってプリペイド携帯を購入することにしました。
DAY 9 : 10月8日(土)ニューヨーク
ホテルの近くのBEST BUYでプリペイドのスマホを購入。
Uberのアカウントの登録を済ませ、ナビを頼りに地下鉄に乗ります。
最初の目的地は、BOWNE & CO. STATIONERS。
印刷所を併設した紙雑貨のショップです。
2011年に来た時は運営母体の事情により閉鎖されていましたが、地元の有志たちの働きかけもあり同年に再開されました。
不幸なことに翌年のハリケーン・サンディで浸水被害を被りましたが、泥水をかぶった活字の水洗いなどボランティアたちの協力で復旧しました。
紙雑貨がたくさん並ぶお店の隣りに、カードやポスターなどのオリジナルのプリントのみを扱う売り場が増えていました。
買い物を終えて店を出ると小雨が降ってきました。紙モノに雨は禁物。早速、Uberを利用することにしました。目的地を入力すると間もなくドライバーからコンタクトがあり、お迎えに来てくれます。
料金も明確でチップも不要。これだけでも安心ですが、Uberの良いところは、お客もドライバーも相互に評価をしあうというシステム。評価の悪いドライバーもお客もシステムを利用できないという対等な関係であるという点です。
迎えに来てくれた車は、車外も社内もすごくきれいです。
ドライバーも親切で礼儀正しい。
料金もリーズナブルなので、今日の移動はずっとUberにすることに。
重い荷物を抱えた雨のなか、空車のタクシーを求めて手を振り続ける人を横目に迎えの車が来る有難さを痛感しました。
The Center for Book Artsは、タイポグラフィーとブックアートをテーマにした学びと繋がりの場で、印刷と製本に関する設備とギャラリースペースが設けられています。
2011年のワークショップで箔押しを習った思い出の場所です。
当時、若い女性が足踏み式のプラテンプレスで印刷をしていたのが印象に残っています。
ジョブプレスと呼ばれるこのタイプは、給紙と排紙を手で行いますので、印刷中は常に手足をリズミカルに動かしています。
うっかりすると指を潰すこともある危険なプレスですので、張りつめた緊張感のなか、ダンスを踊っているかのような美しい動作にしばらく見とれていたのでした。
今回の訪問の目的は、ギャラリーの企画展。
レタープレスで作品制作をしているAmos P. Kennedy Jr.の作品展です。
彼の作品は、タイトルからも推察できるように、人種や政治をテーマにしたメッセージが込められています。
思想信条を作品のテーマにするというスタイルを私は好みませんが、不思議と彼の作品には魅かれるものがあります。
木活字を中心としたフォントやデザインから、感情的な声が聴こえてくるような音楽的なダイナミクスを感じます。
Uberを呼んでArtists & Fleasに。ここは雑貨系ばかりで紙モノはありませんでした。
次にZINEを扱うPrinted Matter, Inc.に。真実の口のようなモニュメントが目を引きます。店内の大きな書棚一杯にZINEが並べられ、日本の著者もちらほら。
今年の修行の旅はこれにて終了。
6年連続でアメリカに通い、来年で活版を始めて10年目を迎えることから、修行の旅シーズン1は今年で一区切りにしようと思います。
アジア、南米、ヨーロッパと他にも気になる国はたくさんありますし、手漉き紙をテーマにした旅もしてみたい・・・修行の旅シーズン2にむけて新たな構想を練っていきたいと思います。
レタープレス修行の旅2016 その1