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オールド活版印刷機でレタープレス、箔押し、エンボス、デボス、バーコ(盛上げ)、小口染めの印刷・加工をしている大阪の活版印刷所【なに活】です。
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2015年12月30日水曜日

レタープレス修行の旅2015 その4

飛行機とレンタカーでアメリカを西から東へ移動し、レンタカーの総走行距離は2,300kmになりました。
いよいよ6州9都市を2週間で巡った修行の旅のしめくくり。

レタープレス修行の旅2015 その1」、
レタープレス修行の旅2015 その2」と
レタープレス修行の旅2015 その3」の続きです。

DAY 11 : 10月12日(月)ロチェスター(ニューヨーク州)
NY州ロチェスターにあるロチェスター工科大学(RIT)のCary Graphic Arts Collectionを訪問しました。キュレーターのスティーブがコレクションの案内をしてくれました。
















資料室に入ってすぐの壁面に、ローマのトラヤヌス帝の碑文の拓本が展示されています。
トラヤヌス帝の記念柱に刻まれた文字は、活版印刷術が確立された15世紀から今日に至るまでローマン体大文字のお手本として知られているもので、この拓本はエドワード・カティチが1936年に作成したものです。
















この時、エドワード・カティチが作成した碑文の複製がシカゴの某印刷会社にあるとのことで、昨年の修行の旅で訪問を計画していました。
残念ながら昨年はアポが取れず見学は叶いませんでしたが、今回、拓本ではありますが紀元2世紀に刻まれた文字を間近で確かめることができて嬉しかったです。
















パペチュアやギル・サンなどのタイプデザインで知られるエリック・ギルのレターカッティングの展示。
















エリック・ギルがデザインした書体見本帳で、本人の蔵書だったもの。
印刷に気に入らない箇所があったようで、書き込みがされている。
























数々のカリグラフィー作品や書体デザインで知られ、惜しくも今年の6月に永眠されたヘルマン・ツァップさんは1977年から10年あまり教鞭を執られていたこともあり、授業で板書した文字たちが残されています。
















奥様のグドルン・ツァップさんの作品も含め、カリグラフィー作品も多数収蔵されています。
羊皮紙の作品には1986年のサイン。
















レイド模様のある薄紙に、アメリカの詩人Walt Whitmanの詩を引用して書かれた1970年の作品。
2011年に東京で開催されたZapf展に行かれた方には見覚えのある作品ではないでしょうか。
Zapf展の図版解説から一部を引用させていただきます。
「dの小文字は、アセンダーが長い場合は上から書くが、短い場合は下から上に向かって書く。文字は書き始めに筆圧をかけ、途中で圧を緩め、終わりにかけてまた筆圧をかける」
















Zapfさんの1954年の著書Manuale typographicumの原稿が所蔵されていました。
















手書きの原稿、校正紙から校了紙まで全ページが保管されていました。
校正のやりとりは手紙も保管されていて、とても興味深かったです。
















背文字の箔押しの加工条件の比較と思われるテストピース。
圧や温度などの加工条件と、箔の切れを検討したものと思われます。
















ケルムスコット・プレスで使われていたハンド・プレスで、後にアメリカに運ばれ、フレデリック・ガウディが所有したプレス。
























私が訪問中にやってきた学生さんはウィリアム・モリスの研究をしているようで、スティーブがケルムスコットプレスの蔵書を取り出してきて講義を始めていました。
















スティーブにテーマやタイプデザイナーの名を伝えるだけで、書架から興味深い資料を次から次へと取り出してきてくれます。
はじめは工科大学のイメージから想像し難かったのですが、ここはタイポグラフィーの博物館と言えるでしょう。
タイポグラフィーの貴重な史料を手に取りながら学べる環境がとても素晴らしいと思いました。

※写真は RIT Cary Graphic Arts Collection の掲載許可を得ておりますので、無断複製、転用はご遠慮ください。



DAY 12 : 10月13日(火)ロチェスター(ニューヨーク州)
カレンダー用の木活字をカッティングしていただいたVirgin Wood Typeを訪問しました。
先週はLAとランカスターのプリンターズフェアに出店されていて、「この1週間は良く会うわね」とジョークでお出迎えいただきました。
つづいて「どれだけ木活字を買ったの?」と聞かれてドキッ。
LAとランカスターでピザ箱に入った木活字を抱えているところをしっかり見られていたようです。
Virgin Wood Typeは2010年に故Bill JonesとGeri McCormickご夫妻がAmerican Wood Typeの機材を入手されて創業された新しい工房です。
ハードメイプルの木口を昔ながらのパンタグラフによってカッティングし、手仕上げを施すという昔ながらの製法に拘っておられます。
















伝統的な書体のみならずオリジナルの書体にも注力されています。
こちらは木活字の原型となるパターンです。
















木活字の材料となるのはハードメイプルで、木口にシェラック・ニスを塗布し、乾燥後にサンディングして表面を磨きます。
















天然の素材ということもあり、高さ(Type-high)の管理が難しいそうです。
こちらは高さを測定する専用のゲージ。
















材料を固定します。
















パターンをセットして、パンタグラフでなぞるように動かします。
















パンタグラフの操作によって材質を固定しているテーブルが動き、高速で回転する刃によって削られます。
















昨年訪問したHamilton Wood Type Museumで見たパンタグラフは、こちらとは逆でドリル刃の方が動く仕組みになっていました。
そのことをお聞きすると、こちらのパンタグラフはAmerican Wood Typeが作らせた特注品とのことでした。
















一見簡単そうにも見えるカッティング作業ですが、刃の動かし方に習熟が必要で、これを誤るとエッジが傷んで失敗作になるのだそうです。
最初は気ままに動かしているように見えますが、しばらく見ていると刃を動かす方向やスピードにリズムがあることに気づきます。
それでもベテランと言えど不良品は出るようで、天然の素材ならではの難しさが伺える不良品入れです。
















ご主人のBillが病に倒れた時、Geriは数名の協力者のサポートによりカッティングを続ける決意をし、現在はMatt Rieckとの共同作業で製作を続けています。
Geriがカッティングを終えた後、ルーターの刃が入らない細部をMattがヤスリやナイフによって仕上げます。
















完成後、Vandercookで校正刷りをします。
















インキの替わりにカーボン紙を用いるため、インキは使いません。
Geriが「だからバージンのままよ」と冗談を言って笑わせてくれました。
















Mattの校正刷りにGeriのOKがでれば出荷という流れだそうです。
見学を終えるとジェリのアンティークの木活字のコレクションの数々を見せてもらいながらの木活字談義。
コレクションの全てを見終わるとGeriが「時間ある?」と聞いてきました。


















【Genesee Center for the Arts & Education】
Geriがメンバーの地元のアーツセンターGenesee Center for the Arts & Educationに連れて行ってくれることになりました。
Mattは仕事が残っているということでお留守番。
私のレンタカーでGeriに道案内をしてもらうことになりましたが、指示をちゃんと聞き取れるか心配になって緊張してきました。
何とか指示を聞き間違うことなく無事到着。
















中に入ると地元のブックアーティストがちょうど木活字で作品をプリントしているところでした。
プレスはVandercookが4台、ドイツ製のプラテンが1台と充実しています。
















他にもシルク印刷や紙漉き、陶芸の設備もされています。
















Geriに付いて地下室に降りると、フロアのあちこちに活字棚が!
















木活字、金属活字とも凄いボリュームです。
















かつてNY州には木活字メーカーがたくさんあったということで、珍しい書体をはじめ、コレクションのほとんど全てを見せてくれました。
















ギャラリー・スペースではガウディ生誕150年記念展が展示されていました。
タイトル通り、ガウディ生誕150年を記念した素晴らしいレタープレス作品がたくさん展示されていたのですが、Geriの作品を撮影したところで残念ながらメモリーカードが一杯になってしまいました。
彼女の作品は木活字を組み合わせて羊のイメージをプリントしています。
また、見えづらいですが上部にはGoudy 150とプリントされています。
羊のイメージは、ガウディの言葉とされる
“ Any man who would letterspace blackletter [lower case] would steal sheep. ”
(ブラックレターの文字間にスペースを入れる者は羊泥棒だ)
からですね。
























「来年また来て何か刷りなさいよ」なんて言われて、その気になってきました。



DAY 13 : 10月14日(水)シカゴ(イリノイ州)
今回のレタープレス修行の旅の最終目的地は、シカゴのStarshaped Press
活字のみにこだわったデザンと印刷を行っているスタジオです。
















動力式のジョブプレスが2台、Vandercookが1台と手フートで印刷を行っています。
















メインのプレスはこちら。
珍しいスピード・コントローラー付きでした。
















ぜひ訪ねたかったのは、彼女のライフワークとも言える金属活字や木活字を使った独創的な作品に惹かれたから。
















組み版のアウトラインを構成する木枠は、デザイナーでありプリンターでもあるJen自らがイメージを元に電動工具で加工を行っているそう。
















組版の造形的な美しさには何度みても見とれてしまいます。
















オーナメントを駆使したデザインは難しくて下手すると嫌味になりますが、彼女の組版にはまったくそれが感じられないのが凄いところ。
昨日訪問したロチェスターのアーツセンターでのガウディ生誕150年記念展にも彼女の作品が出品されていました。
















彼女のブログにその組み版とプリントが掲載されていますので、ぜひチェックしてみてください。
http://www.starshaped.com/blog/2015/03/17/tribute-to-a-tribute-goudy-at-150

Vandercookユーザー同士でプレスの話題も弾みます。
近年の価格高騰にはアメリカのプリンターたちも呆れ気味。
Jenの購入価格を聞いて、呆れるやら羨ましいやら。
















私が2週間の修行の旅について話したら、彼女も各地のプリンターに会いに出掛けて刺激を受けるのが好きで、今年はカリフォルニアまでドライブで行ってきたそう。
私は飛行機も使ったので総ドライブ距離は約2,300キロ。
彼女は直線距離だけで片道約2,800キロ。負けました。

帰りにシカゴの古書店を巡りました。
中古レコードと古書を扱うこの店のオヤジはとても親切でした。
どうして分かったのか「日本からか?」と聞かれ、こちらから何も言わないのに値引きまでしてくれました。どうやら日本人のお客さんが多いそうです。
















たくさんのお宝に出会えたので、急いでホテルにチェックインして荷造り。
スーツケースはすでに規定の重量ぎりぎりなので、あわてて郵便局へ。
何とか閉店までに間に合いました。
長いようで短かった旅も今日で終わりです。
たくさんの出会いと学びを今後に活かしていきたいと思います。

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